2025.10.19
ゼロトラスト時代のアクセス管理設計の基本
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リモートワークの定着やクラウド利用の拡大により、「社内ネットワーク=安全」という前提が通用しなくなりました。
従来のように「社内からのアクセスは信頼する」という境界防御型モデルでは、社外からの不正侵入やアカウント乗っ取りを防ぎきれません。
こうした背景から、今あらためて注目されているのが「ゼロトラスト(Zero Trust)」という考え方です。
この記事では、ゼロトラスト時代に求められるアクセス管理の考え方と、企業がどのように導入・運用していけばよいかを整理します。
ゼロトラストとは何か
ゼロトラストとは、すべてのアクセスを「信頼しない」ことを前提に、ユーザーやデバイス、通信内容を都度検証してアクセスを制御する考え方です。
Googleが「BeyondCorp」として実践した概念をきっかけに広まり、現在では大企業から中小企業まで幅広く導入が進んでいます。
従来のセキュリティとの違いを整理すると、次のようになります。
| 観点 | 従来の境界防御型 | ゼロトラスト型 |
|---|---|---|
| 信頼の前提 | 社内ネットワークは安全 | すべてのアクセスを検証 |
| 対象範囲 | 社内LAN中心 | 社内外・クラウドすべて |
| アクセス制御 | IP・ネットワーク単位 | ユーザー・デバイス単位 |
| 対応範囲 | ファイアウォール中心 | ID管理・端末認証・ログ監査など |
| 概念 | 防御の壁を作る | 継続的に確認し続ける |
つまり、ゼロトラストは「信頼を前提にするセキュリティ」から「検証を前提にするセキュリティ」へと転換する考え方です。
アクセス管理に求められる3つの要素
ゼロトラストの考え方を現実的に企業運用へ落とし込む際、特に重要なのが以下の3つです。
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IDと認証の一元管理
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デバイスの健全性チェック
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アクセスログと権限の継続的モニタリング
それぞれを順に見ていきましょう。
1. IDと認証の一元管理
アクセス管理の最も基本となるのが「誰がどのサービスにアクセスできるのか」を統合的に管理することです。
Google WorkspaceやMicrosoft Entra ID(旧Azure AD)のようなIDプロバイダを活用し、シングルサインオン(SSO)を導入すると、複数のクラウドサービスのログインを統合できます。
この仕組みによって、以下のような運用メリットが得られます。
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退職・異動時に一括でアカウントを停止できる
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不正アクセス検知や多要素認証(MFA)の適用が容易になる
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管理者が権限設定を一元的にコントロールできる
多くの企業では、SSOの導入を機に、既存のアカウント命名規則やアクセス権限の棚卸しを行うケースが増えています。
2. デバイスの健全性チェック
ユーザー認証が通っても、ウイルス感染したPCや管理外の端末からのアクセスを許可してしまうと、セキュリティリスクが残ります。
そのため、ゼロトラストの考え方では「ユーザー」だけでなく「デバイスの状態」も認証の一部として扱います。
代表的なチェック内容は以下の通りです。
| チェック項目 | 内容 |
|---|---|
| OSバージョン | 最新アップデートが適用されているか |
| ウイルス対策 | セキュリティソフトが稼働しているか |
| デバイス登録 | 管理者が承認した端末かどうか |
| 暗号化 | ストレージが暗号化されているか |
| アクセス元 | 公衆Wi-Fi・VPN経由などリスク経路の判定 |
企業によっては、これらの基準を「コンプライアンスルール」として設定し、満たしていない端末のアクセスを制限する仕組みを取り入れています。
3. アクセスログと権限のモニタリング
ゼロトラスト環境では、アクセスが許可された後も「常に監視し続ける」ことが重要です。
アクセスログを収集・分析することで、不審な挙動や権限の逸脱を早期に検知できます。
たとえば、以下のような観点でモニタリングを行うと効果的です。
| 監視対象 | 検知例 |
|---|---|
| ログイン履歴 | 深夜や海外からのアクセス |
| 権限変更 | 管理者権限の不正付与 |
| ファイル共有 | 社外共有の急増・機密データ流出 |
| アプリ利用 | 不明アプリからのAPIアクセス |
こうした情報をもとに、定期的にアクセスルールや認証条件を見直すことが理想的です。
ゼロトラスト導入に向けた段階的アプローチ
ゼロトラストは「すぐに完成させる仕組み」ではなく、「段階的に整えていく運用モデル」です。
以下のように、ステップを分けて進めるとスムーズです。
| フェーズ | 目的 | 主な取組内容 |
|---|---|---|
| フェーズ1 | 可視化 | 現状のアクセス経路・権限・利用端末を整理 |
| フェーズ2 | 統合 | ID基盤(SSO・MFA)を導入し、アクセス管理を集中化 |
| フェーズ3 | 制御 | ポリシーに基づくアクセス制御を適用 |
| フェーズ4 | 監視 | ログ分析やリスクアラートを継続運用 |
| フェーズ5 | 改善 | データ分析を活用し、ルールを最適化 |
企業の規模やIT環境によって、導入スピードや優先度は異なります。
最初からすべてを実装する必要はなく、「現状のリスクを減らすこと」から始めるのが現実的です。
代表的な技術・サービスの例
ゼロトラスト実現のために利用される代表的な技術・ツールには次のようなものがあります。
| 分類 | サービス例 | 概要 |
|---|---|---|
| ID管理 | Google Workspace, Microsoft Entra ID, Okta | SSOとMFAを統合的に運用 |
| デバイス管理 | Intune, Jamf, Kandji | 登録端末の制御・リモートワイプ |
| セキュアアクセス | Zscaler, Cloudflare Access | ネットワークを経由せず認証付き接続を実現 |
| ログ監視 | Splunk, Chronicle, Elastic | アクセスログの分析と異常検知 |
これらを段階的に導入し、組織規模やリスクレベルに合わせて最適化することが推奨されます。
導入を進める際の注意点
ゼロトラストは技術導入だけでなく、社内ルールや運用文化の転換も伴います。
以下のような点に注意することで、スムーズな導入が期待できます。
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「完璧なゼロトラスト」を目指さない
すべてを一気に変えようとすると、現場の混乱やコスト増につながります。 -
ユーザー体験を犠牲にしない
認証や制限が多すぎると業務効率が低下します。UXとのバランスを意識しましょう。 -
関係部門を巻き込む
情シス部門だけでなく、経営・人事・総務などと連携し、運用方針を共有することが重要です。 -
ポリシーを“守る仕組み”として定着させる
文書化だけでなく、ツールで自動適用できるルールを設定することで定着が進みます。
まとめ:ゼロトラストは「考え方」から始まる
ゼロトラストは特定の製品や設定のことではなく、組織全体の「セキュリティの考え方」を変える取り組みです。
まずは「誰を信頼するか」ではなく、「どう検証するか」という発想に切り替えることが第一歩になります。
lanitechの IT MITENA では、このようなゼロトラスト設計の基本原則を参考に、
企業の規模や業務特性に応じて無理のない段階的導入を提案するケースが多いです。
小さな一歩でも、継続して進めることで、企業全体のセキュリティレベルは確実に高まります。
